やっぱりねそうだろねだけじゃちょっとしんどいね
抽選の鬼
うちの母は懸賞を当てるのがやたらとうまかった記憶があります。
僕が子供の頃の記憶なので、まだWebで抽選は主流ではありませんでした。
一枚一枚はがきを書いて送る。すると何故か当たる。不思議でした。
子供ながら理由が気になり、応募前のはがきを見てみたことがあります。
はがきを見て驚愕しました。
氏名:○○
性別:女性
年齢:27歳
所帯:独身
「…いやあんた、年齢サバ読んでるし既婚だしなんなら子持ちやん。」
追及すると素知らぬ顔で、こう言います。
「懸賞する理由を考えて、欲しい年齢を書いて、募集した人が欲しそうな意見を書くの」
…ただのマーケターでした。
時には「無機質な字がほしいから」と父に書いてもらっていたりもしていて、今思い返すとなかなかやるなと思う次第です。
無作為抽出がデータ化によって簡単になった昨今では通じない手法な気がしますが、いち消費者として一考の余地はある手法かなと思います。
いつの間にか固定したユーザーを描いてる
ある意味母親はマーケターのインサイトに迫った消費者型マーケターだったのかもしれません。
インサイトを考える上で、LINEのCMOの田端さんの記事が面白かったです。
ユーザーインサイトへの言及が的を射てるというか僕の”インサイト”に刺さってしまったので引用します。
僕なりに「インサイト」を訳すと、“抑圧されているがゆえに語りえない本音のこと”だと思っています。
人間って、多面的に文脈によって顔が変化する時があるから、それを一面的にたとえば「マイルドヤンキーなんでしょ?」ってラベルを貼っておしまいでは、浅いなあと。
ユーザーをペルソナ化して固定化する手法があります。
手法としては間違っていないのですが、固定された存在として捉えることは危険だと思います。
人間の行動は決してソリッドではなく、リキッドなのです。
ユーザーの「ここは触らないでほしい」点まで配慮する必要があるという言及は、社会がつくり出す気恥ずかしさという本音にまで触れているようで一種の感動を覚えました。
やっぱりそうだよねが欲しいマーケター
広告代理店時代に、マーケティングリサーチを行いレポーティングする機会がありました。
大体のアンケートパネルは「まあ、やっぱりそうだよね」で収まることが多く、描けるユーザーの像も既知のものでしかない場合が多いです。
リサーチャーの顧客は依頼主であるマーケターです。
ここでリサーチャーが陥りがちなのは、依頼主の意向に沿ったレポーティングをすることです。
もちろん数字の改ざん等は行いません。
データの中から依頼主がほしいであろうユーザー像を描いて、当てにいく。
それでは本当の「インサイト」に辿り着くわけがありません。
それこそ母がやっていた「これが欲しいんでしょ?」が実際の現場でも行われているのは危機感すら覚えます。
そして、その程度の仕事は消費者マーケターである母に読まれているのです。
ビジネスの場では、決して懸賞の景品がほしいわけではありません。
欲しいのは掴んでも掴みきれないユーザーの本音なのです。
全ては母の手中。そんなの絶対ごめんだ。
僕のちかくからは以上になります。
広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。
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